2014/11/28

真昼の肝試し

 

 



久しぶりに戻ってきた郷里は
なかば廃村となっていた。

秋の陽気に誘われるまま歩を進め
廃校の門をまたいだ。

建替えられた校舎は馴染みなく
ほどなく廊下に迷った。

誰もいないはずの教室は
無音の気配に満ちていた。

じっと見詰め返してくる
写真の中の歴代校長たち

冷めた眼で見詰め返してくる
卒業制作の石像たち

それぞれがあらぬ方向を見やっている
真黒にすすけたトーテムポールたち

風雨にさらされ力つき
今にも膝折りそうな朽ちた遊具たち

校庭の、かつて希望に満ちて
飛び立つ風を待っていた綿毛たちは
その機会をのがし
とうの昔に干涸びていた。

そうだ風を起してやろう。
今度こそ飛び立てるだろう。


※これはフィクションです。実在の人物団体場所とは一切関係ありません。

2014/10/01

母の庭、その他の物語



久々に展示しました。
今回は写真と言葉。
ここ数年つねにバタバタしているので
なかなか満足できるまで作り込めない感がありますが。
まだまだやりたい事があるなと。
頑張って楽しもう。

感想書いていただいたり、フォトブック買っていただいたり
皆様有難うございました。

2014/07/23

The garden of my mother and other stories



母の庭、その他の物語
9月23日(火)ー28日(日)13時ー23時

久々に展示します。
写真と言葉。

本と自由 ギャラリースペースにて。
カフェ併設の古本屋さんです。ぜひワンオーダーして店主とお話しして下さい。
広島市西区横川町3−4−14

2014/07/10

未だ出航せず





嵐が続いている
出航する気配はない

待合室の長椅子に座り
吹抜けの雨に濡れる

いつか売店も閉じ朽ちる
行く先も帰路も見失った

出航する気配はない
ただ嵐が続いている


※これはフィクションです。実在の人物団体場所とは一切関係ありません。

2014/06/07

ひと息




最後のひと息が
息力がそっと吹きかけられ
赤く実をつける
次の息力がともる。

いとなみは続いていく。



※これはフィクションです。実在の人物団体場所とは一切関係ありません。

2014/05/25

故郷





故郷
遠く離れて
帰ることのできない場所

ただいま
朧な思出のなかで
ひとり呟いてみる

迎える声が
響くことはない
おかえり

形にならないものたちが
消えてしまわないように
鍵をかける

おかえりなさい。


※これはフィクションです。実在の人物団体場所とは一切関係ありません。

2014/05/22

未来の数





入り口ふたつ出口みっつで
どこから入ってどこから出るか
選択可能な未来はむっつ。

のぼり梯子ふたつ落下ロープみっつで
どこから登ってどこから降りるか
選択可能な未来はむっつ。

未来はどんどん、
どんどん増えていくのに

旅は必ず収束して、
いつも行き止まりでおしまい。


※これはフィクションです。実在の人物団体場所とは一切関係ありません。

2014/04/12

うつろひ




人はうつろひ
街もうつろふ

静かな昼下がり
行交うものはただ猫のみ
建物は人の追憶にふける


※これはフィクションです。実在の人物団体場所とは一切関係ありません。

2014/01/15

里に下りた顛末





百数十年ぶりに里に下りてきた私は
あろうことか人間に狩られてしまったのだ

この老体を食べても美味しくなかろうに
あろうことか吊るされてさばかれてしまったのだ

私の臓腑の中で可愛がっていた蟲までも
あろうことか曝露されて標本にされてしまったのだ

そして灰色の脳髄は
あろうことか珍味珍味と呼ばれて焼酎漬けにされてしまったのだ

酸素の薄れていき朦朧とする意識の中で
あろうことか今夜の献立を思い煩ってしまったのだ


※これはフィクションです。実在の人物団体場所とは一切関係ありません。